2 : 秋元文庫の頃 (前回の続き)

(承前)
 これも書いておかないといけないでしょうが、1970年代、子どもは今よりずっと、NHKを見ていたものです。今、その頃の勢いを盛り返そうとして、「ひょっこりひょうたん島」や「サンダーバード」をやっていますが、60年代の再現である辺りが何とも……。
 まあ、今さら21世紀ブームを巻き起こすことは不可能ですが。
 それはともかく、それまでのNHK子ども向けドラマは、小学生ぐらいをターゲットにしたものが多かったのですが、「少年ドラマシリーズ」は中学・高校生、ちょうど今の「ライトノベル」の読者層を狙った、ちょっと年齢層の高い作りでした。しかも「タイム・トラベラー」の放映は、1972年のお正月。のんびりとお茶の間で、おせち料理の残りなんぞをつついていた子どもたちの目に飛び込んできたのは、当時としては最新の、ビデオ合成などを使った、しかもショッキングでホラー色さえ感じるような映像。それはもう、大変なインパクトでした。ああ、ちなみにこれも言っておくと、当時はビデオのドラマは少なく、まだフィルム録りのものも多かったんですね。それだけに、ビデオの映像は、ものすごくリアル感もありました。
 おそらく、人によって体験は違うでしょう。東京に住んでいた人だったら、SFブームはその前の「ウルトラQ」辺りから始めるかもしれませんね。実際、「ウルトラQ」は日本SF作家クラブが関わっていましたので、ジュニア文庫の初期作品、例えば前に書いた「地底怪生物マントラ」などには、影響しているかもしれません。しかし、直接にジュニア文庫を推進したようすはないようです。むしろ、眉村卓さんの異次元もの、光瀬龍さんの多彩な(タイム・トラベルから異次元ものまで)作品が、好評を博しました。
 また、これも今ではあまり分からなくなっていますが、1970年前後には、地方には民放局が少なく、私の育った青森では一局、それも日テレ系だったため、「ウルトラ」シリーズも、ずっと後の夏休みなどの特別放映で見たのでした。
 話がそれました。「タイム・トラベラー」は、長らく幻の作品でしたが、最近、ついにビデオが発見され、復元されてDVD化されましたので、ご興味のある方はどうぞ。とにかく、その人気は、大変なものだったんです。
 そのせいがあってか、ずっと後に角川映画は、新人・原田知世のデビュー作に、原作の「時をかける少女」を持ってきました。1983年に、薬師丸ひろ子の「探偵物語」と2本立てで公開されたこの映画は、ごく低予算であるにも関わらず、その年の興行収入2位(1位は、フジテレビが総力を挙げて前売り券を売った「南極物語」)となる28億を叩き出し、角川映画でも新記録となる売り上げを記録したため、それ以来、アイドルが特撮・SFといったジャンルものの映画に主演する、という、それまではタブーだった(正確には、79年の薬師丸ひろ子「ねらわれた学園」があります)流れができます。ちょうど、少年ドラマシリーズも終わって久しく、若い人がSF映像に飢えていた頃でもありました。それまでのアイドル映画というと、青春映画や、山口百恵の映画のように文学の名作を映画化したもの(そうすると文部省の推薦が取れて、割引券を学校でばらまきやすい)などが主流で、そもそも怪獣映画以外のSF映画が少なかったんですね。アイドルや若手女優がホラーにどんどん出るのも、その流れの延長線上にあります。
 また話がそれましたが、そういうわけで、「タイム・トラベラー」はヒットし、脚本を担当した石山透のオリジナル・ストーリーによる「続・タイム・トラベラー」が作られ、それが小説化されて「続・時をかける少女」として鶴書房のシリーズに収録される、というようなことまで起こります。そして、その後、学園もの、名作ものなどたくさんの作品を世に出した「少年ドラマシリーズ」の中でも、SFは重要な柱になっていくのです。
 そんな中で、1973年、ついに、中高生向けの文庫シリーズとして、秋元文庫が創刊されたというわけなんです。
 前に書いたように、最初の秋元文庫は、その前のシリーズを受けての少女小説を中心にスタートした、と当時を知る人は言います。しかし、SFの柱は大きくなっていきました。少年ドラマシリーズで言うと、鶴書房からは光瀬龍さんの「夕ばえ作戦」、眉村卓さんの「なぞの転校生」などが、やや遅れて出たソノラマ文庫からはやはり光瀬さんの「暁はただ銀色」などが、そして秋元文庫からは、眉村卓さんの「地獄の才能」「ねらわれた学園」(ドラマタイトルは「未来からの挑戦」)、光瀬龍さんの「その花を見るな!」「消えた町」(ドラマタイトルは「その町を消せ」)などが出ています。
 ジュニア・バブルの時代には、メディアミックスということが盛んに言われましたが、少年SFの世界は、初めから映像との連動で盛んになったと言っていいのではないか、私はそう思うのです。
 秋元文庫からは、のちにジュニア文庫で腕を振るう若桜木虔さんなども現われ、また、自らを「読み物作家」と呼ぶ山中恒さんも精力的に執筆し、文庫を盛り上げて行きました。昭和61年頃までは、シリーズは健在だったことが分かっていますが、その後、本屋でバイトをしていた私が問い合わせたところ、新刊の発行をやめた、という情報が流れてきて、現在は、秋元文庫は発売しておらず、主に戦記物などを出しているようです。
 とにかく、先駆けとしての役割を、秋元文庫は果たしました。しかし、一社だけでは、ジュニア文庫という分野は成り立たなかったでしょう。ここへ、1975年にソノラマ文庫、1976年に集英社文庫・コバルトシリーズ(後のコバルト文庫)が創刊されて、ジュニア文庫は最初のブームを迎えるのです。

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第3回
ソノラマとコバルト
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タイム・トラベラー
1972〜1983年放映のNHKドラマ。
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探偵物語
赤川次郎原作。松田優作、 薬師丸ひろ子主演のラブ・サスペンス。

南極物語
高倉健主演。実話に基づき、南極を舞台にカラフト犬の生存を賭けた闘いを描く。
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石山透
一般には「プリンプリン物語」で知られている。
(文責:早見裕司)








夕ばえ作戦
著 光瀬龍
過去と現在を縦横無尽にかけめぐる奇想に満ちた戦いを描く。
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山中恒
「転校生」の原作者。
(文責:早見裕司)