名台詞を通してはじめる読書もある。ライトノベルを中心に、作品の長所を追いかけて紹介していくサイトです。
 

本日の名台詞

――『がんばれ』だって?
その言葉にこれっぽちの価値も見出してなかったオレが、取り返しも巻き返しもきかなくなったことを知り、それでも前を向いて歩くことを、折れると分っている枯れ木を登りつづけることを選んだあいつに、どのツラ下げてそんな戯れ言を口にできるってんだ。
でもそれ以上、オレに何ができる?
ほかに何ができるってんだよ。
ただひたすらにそう祈ること以外、何が。

そう、祈るしかなかった。
がんばれ、と。
あいつがこの先、一歩でも多く前に進めることを、あいつがこの先、一メートルでも高く上に登れることを。
あいつがこの先、少しでも幸せでいられることを。
オレは祈った。
全身全霊で、命運をかけて、身を削るように祈った。
なりふり構わず、魂を捧げて、吠えるように祈った。

がんばれ。
がんばれ、と。


タイトル:空とタマ―Autumn Sky,Spring Fly(小説:富士見ミステリー文庫)
作者  :すずきだいすけ:鈴木大輔
絵師  :原建人
デザイン:?
編集  :?
キャラ :天野空 (247 P)



 ▼本日の作品&台詞解説▼

読み切りの良質青春ストーリーです。

計7回目の家出を敢行した少年・天野空が向かった先は前から目星をつけておいた一軒の倉庫。しかし、家出先にいいと思ったそこには既に先客が。
かくして正体不明の謎の先客と、倉庫の居住権?をかけて、血を血で洗うバトルが……。相手の正体がまるでわからず、じわじわとわかっていくおもしろさと、それから加わるもう一つ別の要素が作品に単なるコメディに終わらせず、深みを与えています。そっちについては実際に読んでお確かめを。

それでは台詞解説。
その「もうひとつの要素」に関わってくる話です。よく相手によっては安易に「がんばれ」という言葉を使うな、と言います。しかし、もしそれ以外相手にしてやれることが何もなかったら? なんでもしてあげたいのに何もできることがなかったら? そういう心境を綴ってます。