樹上のゆりかご
作者 :おぎわらのりこ:荻原規子
絵師 :香坂ゆう
デザイン:?
編集 :?
しばらく積ん読だったんですが、ふと目に留まってやっとこさ読了。
昔は男子校だった名残から、男比率の高い辰川高校。文化祭などの行事を積極的に行い、同時に進学校でもあるこの学校で、高二の上田ひろみは学園生活でどう行動し、何を感じていくのか?
見届け人のような立場に回ることの多いひろみの一人称で、あくまで等身大の学生視点から丁寧に学園生活と、そしてその中で起きる「ほころび」について描写していきます。
熱血や、大立ち回り、狂騒とは対極にある話でじっくりと読むタイプの物語なので、燃えとか萌えに主軸をおいて読むには向いてませんが、一文一文が体にしみ通るような感覚のあるすばらしい作品。おすすめ。
とにかくあらゆる描写が丁寧で、ひろみの心情の微妙な揺れ動き・変化が手に取るように伝わってきます。思春期には「なにか表現しがたいもどかしさ」を感じることが多いと思いますが、そういう機微が文章からにじみ出てきます。文化祭準備や合唱コンクールにかけるあの名状しがたい熱気も伝わってくるかのようです。途中からミステリ的な展開があり、犯人はわかっているのですが、先が気になってページを繰る手が止まりません。
なお、「これは王国のかぎ」と主人公は共通していますが、物語自体は完全に独立しているので読んでいなくても問題ありません。こちらを読んで気に入ったら手を出してみる、というスタンスで充分だと思います。
この作品の名台詞
……私たちは、なぜこんなことをしているのだろう。
クラス合唱に努力をかたむけると、いったい何が得られるというのだろう。
……だれが、これをしようと言い出すのだろう。目をそらそうと耳をふさごうと、私たちは個人でしかなく、大学受験は個人が受けるしかないのに。
歌いながら、とりとめのない考えが頭をよぎる。
……私たちが歌うのは……たぶん、私たちが若いからだ。
自分たちの努力の先に何があるか、まだ見えていないからだ。
価値あるものは何か、勉強にははたして価値があるのかどうか、未定だからだ。
……だから、とりあえず歌ってみる。
とりあえず全員が歌ってみるのだと、私は思った。
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